VOICES
聖なる空洞とその器
Editor: 小林史恵
西山厚|〈奈良〉の信仰と美術──歴史はすべて現代史である
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Editor: 小林史恵
西山厚|〈奈良〉の信仰と美術──歴史はすべて現代史である
私たちはいつの時代も、大きな善の象徴や、華に譬えられる美しきものの結晶を求めてきた。
それは、霊山と大きな空をひと続きに抱える安らかな都。
あるいは、その真ん中に空洞を抱えた大仏や塔。
自らを虚しくしてなしえる偉業。
仏像や塔、それらの事業も大事にみえるが、それらはひとびとのエネルギーを集める象徴的な器であり、その空洞性こそが実は重要なのではないか。
現代の私たちはいわばその器をみているのだが、それを拝み頼りにしてきた数多のひとびとの思いが、それらをさらに力強いものとする。
私たちは線的にリニアな一本道を生きているのではなく、エッシャーの騙し画のように、前に進んでいるはずがいつの間にか後ろにもどっているような螺旋の回廊にいる。
そして、その回廊の真ん中には空洞がある。
それゆえ、その回廊、私たちの時空の全てを抱えて存在する世界は、そのままで美しい。
REPORTS
LECTURE OUTLINE
西山厚
2020年8月30日(日) 14:00–16:00
仏教美術史の第⼀⼈者で、奈良国⽴博物館名誉館員の⻄⼭厚さんをお迎えし、かつて⼤陸との間で⼈的・物的交流が頻繁に⾏われる中、疫病や天災、争乱など困難な出来事を経て育まれてきた奈良の⽂化芸術に焦点をあて、地域のコンテクストを現代史的視点から読み解く⽅法について学びます。
1953年徳島県生まれ、奈良県在住。奈良国立博物館の学芸部長として「女性と仏教」など数々の特別展を企画。現在は半蔵門ミュージアムの館長を務める。奈良と仏教をメインテーマに、人物に焦点をあてながら、様々なメディアで生きた言葉で語り書く活動を続けている。