VOICES
物議をかもす〈マップ〉は可能か?
Writer: 西尾美也
松岡慧祐|地図/マップは地域の多層性を表現しているか
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Writer: 西尾美也
松岡慧祐|地図/マップは地域の多層性を表現しているか
〈地図〉は制約があって権力的、〈マップ〉は自由度が高く開かれていて脱権力的なメディアという説明を受けて、アートで言うところの「ホワイトキューブ」と「アートプロジェクト」の関係に近いものを感じた。〈マップ〉で紹介された事例は、住民自治や環境問題、防災、地域資源などがテーマになっているものが多く、社会にとって誰も文句の言う余地がない「よいもの」を前提に制作されているように思えた。このこともまた、アートプロジェクトが「地域アート」として批判される場合と似ている。個人的には、身の危険や法を犯してでも社会に表現を投げかけるストリートアートが、時にアートプロジェクトのあり方を更新していくと考えている。では〈マップ〉において物議をかもす表現の事例はあるのだろうか? やばい〈マップ〉、気分を害する〈マップ〉、法を犯した〈マップ〉……、そうしたものに〈マップ〉をさらに面白いメディアとして更新していく可能性を感じた。ワークにおける新しいマップのアイデアでは、プライベートとパブリックを交換するという自身の一貫した関心から、洗濯物のマップ(一般家庭の洗濯物が眺められる場所を示したもの)や、リビングのマップ(ストリートビューは家の外観しか映さないが、家をめくり返して各家庭のリビングの写真だけが地図上に配置されたもの)などが思い浮かんだ。
PROFILE
1982年奈良県生まれ、同在住。美術家/奈良県立大学准教授/CHISOUディレクター。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で発表。近年は公共空間へアプローチを行う大規模な作品に取り組む。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。
LECTURE OUTLINE
松岡慧祐
2020年10月4日(日) 10:00–12:00
身近な存在から社会を読む学問「社会学」の研究者である松岡慧祐さんをお迎えし、世界や社会を描き出すメディアとしての地図/マップをとりあげ、「グルメマップ」や「観光マップ」、「グーグルマップ」など生活の中で手にする地図に注目し、地域の多層性を読み解きます。
1982年岡山県生まれ、大阪府在住。現代の都市や地域社会を表象するメディアとしての地図のあり方について社会学的な見地から調査・研究している。主著に『グーグルマップの社会学──ググられる地図の正体』(光文社)などがある。
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