VOICES
歴史、他者の視点、感覚を通してまちを遊ぶ
Writer: 西尾美也
陸奥賢|まち歩きに学ぶ、コンテクストを読み解く糸口の見つけ方
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Writer: 西尾美也
陸奥賢|まち歩きに学ぶ、コンテクストを読み解く糸口の見つけ方
陸奥さんの案内で巡る今回のまち歩きは、歴史を知ることでまちの見方が変わるということがよくわかる体験だった。歴史は一つの見方なので、まちを面白がる方法はいろいろある。実際にそうやって陸奥さんは「大阪あそ歩」や、「大阪七墓巡り復活プロジェクト」などとタイトル(視点)を作って、まちを使って遊んでいる達人なのだと思う。ただ、これは陸奥さんにしかできないことではなくて、たとえば同じ場所に暮らす人たちのまちの使い方を共有するだけでも、おそらく知らなかった、見ていなかったものがいろいろ見えてくるということだと思う。単純な例でいうと子どもの視点とか、車椅子生活の人の視点とか、スケボーをする人の視点とか、ホームレスの視点とか、毎日飲み歩いている人の視点とかで、まちを見る視点や解像度はそれぞれあり、そういった他者の視点を共有するだけでもおそらくツアーになる。
あるいは、写真家の下道基行さんの「見えない風景」というワークショップを思い出す。路上観察と散歩とスナップを混ぜたような、でも「カメラ」を使わない写真的体験をテーマに、各参加者は言葉の地図を制作し、最後にみんなで交換することで、視覚の交換がそこで生まれてくる、というもの。下道さんの言葉をそのまま引用する。「写真的なワークショップなのですが、被写体をうまく切り取って絵にする、という趣旨ではなくて、今回のワークショップの興味は『まちの中から何かを発見する瞬間の楽しさ』に尽きます。まちの中に生まれては消えて行く存在に、愛おしさや形や関係性のおもしろさを<発見する>というのが第一にあるんです。そういうものって、まちから展示空間に持ってきて、『どう?おもしろいでしょ?』って見せる方法もありますが、風景の中にあるからこそおもしろいし、それを動かしたくないことも多々あるので。さらに、ワークショップでそれをやるってことの意味としては、それは実は僕だけが発見できるものではなくて、コツさえを共有すれば、もしかしたら、参加者が僕なんかよりもおもしろいものを発見できるかもしれないし、より複数の視点で探した方が楽しいという思いがあるんです」
歴史や他者の視点に加えて、愛おしさや形や関係性のおもしろさを知覚する感覚を合わせ持つことができれば、まちはすごく面白い遊び場になる。
PROFILE
1982年奈良県生まれ、同在住。美術家/奈良県立大学准教授/CHISOUディレクター。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で発表。近年は公共空間へアプローチを行う大規模な作品に取り組む。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。
LECTURE OUTLINE
陸奥賢
2020年11月8日(日) 14:00–17:00
※⾬天決⾏
「大阪あそ歩」の元プロデューサーで、現在も「大阪七墓巡り復活プロジェクト」や「大阪モダン寺巡礼」など、独自の視点で数多くのまち歩きの企画を行いながら、観光・メディア・アート・まちづくり等の多様な分野でのプロデュースを手がける陸奥賢さんを迎え、実際に奈良のまちを歩きながら、土地やあらゆる物事のコンテクストを読み解くための方法について学びます。
1978年大阪府生まれ、同在住。ライター、放送作家、リサーチャー等を経験後、「物事の見方が変わる意外な体験」と「観光を広く定義する視点」から生まれる様々な企画を実施。「まわしよみ新聞」「当事者研究スゴロク」「直観讀みブックマーカー」などを考案している。
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