CHISOU

VOICES

小さなおこない

Writer: 西尾美也

西山厚|〈奈良〉の信仰と美術──歴史はすべて現代史である

想いを形にして残して伝える。現代につながる壮大な歴史の物語。美大生が最初に聞くべきレクチャーだなと思いつつ、これを最初に聞いたら何も作れなくなるのではないかとも思った。あるいは、誰もが保存修復の道を選んだりして。それも悪いことではないし、磨いた技芸で過去と未来をつなぐ数千年に及ぶ人間文化の担い手になれるなら、もっと保存修復が憧れの対象になってもいい。ただ、継承ではなく自ら何かを表現したいと思っている学生に西山先生ならどんなアドバイスをされるだろうか? 表現には飛躍が必要だから、歴史探求ばかりに勤勉になると、自分が考えることや作るもののちっぽけさを目の当たりにするばかりで何もできなくなる。また、意識の高い美大生は、大学のアトリエや廊下に散らばるみんなの習作をみて、自分たちは結局ゴミしか作っていないのではないかと不安になる。モノではなくコトをというアートプロジェクトの手法は、たとえばこうした反芸術の精神から立ち上がっていることも確かだ。想いを形にしない方法で伝える……。なぜかこんなふうに壮大な歴史に対抗するような考え方でレクチャーを聞いてる時、華厳経の「華」はフラワー(モノ)ではなく、人々のおこない、存在そのもののことであると聞いて、芸術表現を特別なものと捉えすぎている自分に気がついた。人が何かを表現したいと思うのは当然であって、それは小さなおこないである。でもそれが大事だということ。「大きな力で造るな、たくさんの富で造るな」も「尺布寸鉄」も「一針一草」も、アートプロジェクトがやりたいことと確かに通じている。千年以上前からこうしたコンセプトがあったと考えれば、対抗心ではなく、「歴史は現代史」というタイトルがすっと自分の中で腑に落ちた。自分の作品を千年後まで残したいと考えたことがないのは(表現者としてすべてをここに賭ける人も少なくない)、壮大なコンセプト(土台)のある奈良で生まれ育ったことが影響しているかもしれず、それはやはり幸運だったと思える時間だった。

  • Update: 2020.09.05 Sat.

PROFILE

西尾美也

1982年奈良県生まれ、同在住。美術家/奈良県立大学准教授/CHISOUディレクター。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で発表。近年は公共空間へアプローチを行う大規模な作品に取り組む。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。

REFERENCES

講座について

LECTURE OUTLINE

  • ラボメンバーコース
  • ゲストコース

西山厚

〈奈良〉の信仰と美術──歴史はすべて現代史である

2020年8月30日(日) 14:00–16:00

CHISOU lab.

仏教美術史の第⼀⼈者で、奈良国⽴博物館名誉館員の⻄⼭厚さんをお迎えし、かつて⼤陸との間で⼈的・物的交流が頻繁に⾏われる中、疫病や天災、争乱など困難な出来事を経て育まれてきた奈良の⽂化芸術に焦点をあて、地域のコンテクストを現代史的視点から読み解く⽅法について学びます。

西山厚
仏教史・仏教美術史/半蔵門ミュージアム館長/帝塚山大学客員教授

1953年徳島県生まれ、奈良県在住。奈良国立博物館の学芸部長として「女性と仏教」など数々の特別展を企画。現在は半蔵門ミュージアムの館長を務める。奈良と仏教をメインテーマに、人物に焦点をあてながら、様々なメディアで生きた言葉で語り書く活動を続けている。