CHISOU

VOICES

「活動」としてのアーカイブ

Writer: 西尾美也

藤田瑞穂|キュレーターは何を編集し、アーカイブしているのか

ハンナ・アーレントは、人間の基本的な活動力を、「労働」「仕事」「活動」の3つに分類した。「労働」は生命を維持するための行動で、「仕事」はある程度の耐久性をもつ消費の対象を作る行動、「活動」は物の介入なしに人と人との間で直接交わされる唯一の行ないであるとされる。この分類に基づいて、僕はこれまで一貫して、自分のプロジェクトは「活動」、それを展覧会で見せるのも、カタログにするのも、論文にするのも、あるいは服として販売するのも、すべて「仕事」だと捉えてきた。そして、「活動」こそが自分にとって最も重要なもので、「仕事」は副次的な産物だと捉えてきた。その意味で、「仕事」においては、どこに価値を置いた人と一緒に仕事をするか、あるいはどこに予算がかけられているかによって、プロジェクトの現れ方はいかようにも変化・発展することを認識してきた。例えば、美術館に所属する学芸員からの依頼であれば、「活動」の成果を展覧会で見せることが前提となり、美術館という場に蓄積されたさまざまなスキルに支えられながら展示を実現できることは、アーティストにとって、これ以上ない喜びであることは間違いない。あるいは、簡単な発想の転換として、「活動」自体を展覧会の形式で提示しようとする試みも最近は増えてきているが、これに関してもそれに挑戦したいと思う企画者がいなければなかなか実現するのは難しい。同じく、広報物も、写真記録もカタログも、映像アーカイブもウェブサイトも、あるいはトークイベントやワークショップの開催、書籍化も、誰がなぜ、どのくらいの予算で、誰とどのように、それをやりたいと思っているかによって、その出来や価値はいかようにも変わっていく。これを熟知しているアーティストであれば、おそらく一つのプロジェクトに時間とお金をかけて、すべて自分でディレクションし、すべてのフェーズで手を抜かないことを選択するだろう。ただ、そうすると、限られた条件やさまざまな人たちとの協働における、自分でも予期しなかった感触を得る機会は逃してしまうようにも思い、どちらを選ぶかはアーティストのスタンスとして難しいと感じる部分だ。ただ、コミュニケーションをテーマにする身としては、後者を前向きに捉えてきた。
藤田さんの最初の自己紹介を聞いて確信するのは、アーティストが独自の表現を探求しているのはもちろんだが、そのアーティストに協働を呼びかける「誰が」という部分も当然一様ではないから、どのような問題意識を持った人であるかということが、その成果を決定的なものにしているということだ。学芸員は雑芸員と呼ばれて久しいが、一方で、独自の背景や問題意識を持った人が、何かを企てていくときに、学芸員という立場はすごく柔軟で有効なものになりうるということを藤田さんの実践は教えてくれる。また、そうした「学芸員」とであれば、単なる「仕事」の仲としてではなく、展覧会にしろカタログにしろ何かをともに作るプロセス自体が、まさに「活動」的なものになるのだろう(ちなみにそう考えると、2019年に服部浩之さんがヴェネチアで成し遂げたこと、面白がっている部分も、おそらく同じように説明できることがわかる)。アートプロジェクトのアーカイブ実践においても、「もう一度作り直す」という意識とともに、それを「仕事」としてではなく、関わる人々の互いの問題意識を共有しながら「活動」としてできるかどうかが、すごく大事なように思わされた。

  • Update: 2021.01.10 Sun.

PROFILE

西尾美也

1982年奈良県生まれ、同在住。美術家/奈良県立大学准教授/CHISOUディレクター。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で発表。近年は公共空間へアプローチを行う大規模な作品に取り組む。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。

講座について

LECTURE OUTLINE

  • ラボメンバーコース
  • ゲストコース

藤田瑞穂

キュレーターは何を編集し、アーカイブしているのか

2020年12月6日(日) 14:00–16:00

CHISOU lab.

創立140周年を迎えた京都市立芸術大学の附属ギャラリーである@KCUA(アクア)で、先駆的な展覧会企画を数多く手がけてきた藤田瑞穂さんをお招きし、ウェブサイトや本などによる展覧会の記録から、大学の収蔵品や地域の史料の創造的活用まで、キュレーター視点からアーカイブの実践について掘りさげます。

藤田瑞穂
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAチーフキュレーター・プログラムディレクター/奈良県立大学客員教授

1978年兵庫県生まれ、京都府在住。同時代を生きる作家と並走して、領域を横断する展覧会やプロジェクトの企画運営から書籍出版まで行う。主な企画にジョーン・ジョナス京都賞受賞記念展覧会「Five Rooms for Kyoto: 1972−2019」、ジェン・ボー「Dao is in Weeds」など。