CHISOU

VOICES

身体がアーカイブする共生空間

Writer: 西尾美也

乾聰一郎|図書館という場を編み直す ──関係のないものを編集でつなぐ

図書館が「無料の貸し本屋」という認識にとどまっている限り、図書館と利用者にはサービスの提供側とそれを促すニーズ(要求あるいはクレーム)という以上の関係性が生まれない。パイは補集合にあると考える乾さんは、図書館を舞台に新たなニーズを作り出す活動をさまざまに実践してこられた。その中心になる考えが、図書館と利用者の関係を「公共と個人」から、「公、共、個人」へと解体するというものだ。「公共」と「個人」が直接向き合う関係ではなく、「公」と「個人」が互いに向き合う先としてある「共」のことを、乾さんは「共生空間」と名付ける。これは、小山田徹さんが用いられる「共有空間」という概念と同義と考えてよいのではないだろうか。小山田さんが例えば焚き火の場を作るように、乾さんもこうした空間は「ゆるく、ゆっくり、長く」がいいと言う。
アートプロジェクトやそのアーカイブを考える立場として、乾さんの言葉はじわじわと響いてくる。曰く、「役に立つことはすぐに役に立たなくなる」「続けることが目的になったらやめたらいい」「人々の活動の動機は感性的なものなので、これに評価はいらない(アーカイブして共有できるものにさえしておけばよい)」のだ。
レクチャーで紹介された「自分の仕事を考える3日間」。実ははじめて開催された2009年の1月、たまたま東京から帰省していた僕も参加していた。こんな企画が、こんな図書館が、奈良にあるのか。会場の熱気と、グループワークで初対面の人と語り合った興奮を今でも身体が覚えている。そうして僕もまた、図書館でのあの出来事を思い出し、奈良でアクションを起こしている一人なのだ。乾さんが当時試みた共生空間の実験を、僕の身体がアーカイブしている。

  • Update: 2021.02.16 Tue.

PROFILE

西尾美也

1982年奈良県生まれ、同在住。美術家/奈良県立大学准教授/CHISOUディレクター。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で発表。近年は公共空間へアプローチを行う大規模な作品に取り組む。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。

REFERENCES

講座について

LECTURE OUTLINE

  • ラボメンバーコース
  • ゲストコース

乾聰一郎

図書館という場を編み直す ──関係のないものを編集でつなぐ

2021年1月17日(日) 14:00–16:00

※やむをえぬ事情により日程・会場が変更となりました

BONCHI

奈良県立図書情報館で開館以来、運営・企画に携わってきた乾聰一郎さんをお招きし、まちの記憶装置の要である図書館が地域のなかで担う役割の変遷をたどりながら、古今東西の情報・人・場を創造的につなぐ編集と発信のマネジメントのあり方について探ります。

 

乾聰一郎
奈良県立図書情報館 図書・公文書課課長

1962年大阪府生まれ、京都府在住。1999年より奈良県教育委員会事務局生涯学習課で新県立図書館(現奈良県立図書情報館)の建設準備に携わる。開館後は展示やフォーラム、コンサートなど主催事業の企画運営や情報発信事業を担当してきた。2017年から現職。