CHISOU

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アートマネジメントができること

“表現される側”の人たちとの水平な関係をつくる

Editor: 内山幸子(プログラムコーディネーター[プログラム2「生態」])

ひと口に「アートマネージャー」と言っても、その人の動機や活動背景、経験してきたこと、アートマネジメントを通じて実現しようとしていることは千差万別です。

私の場合は、文化振興財団に勤めた後、フリーランスとして地域アートプロジェクト、アートNPO、地域芸術祭等でアートマネジメントに従事してきました。かれこれ20年以上、アートの現場で体験してきたことや、感じてきた違和感や感動から、いま私がアートマネジメントを通じてできると思っていること、実現したいと思っていること、そしてそのためのいくつかのアイデアをここでシェアしたいと思います。

kavcaapのこと
私が地域やコミュニティで市民と協働する現場を選ぶようになったのは、インターンとして参加した第7回神戸エイズ国際会議[7th ICAAP]でのアートプロジェクト「kavcaap/カブキャップ」(2003-2005、神戸アートビレッジセンター[KAVC])がきっかけでした。

「kavcaap2003」展示風景
(プロデューサー:ブブ・ド・ラ・マドレーヌ|参加アーティスト:遠藤裕美子+原田リョータ、INTEXT、松本力 他)

kavcaapのミーティングは、ゲイの人たちのためのコミュニティスペースで毎週のように行われました。そこでは「異性愛女性」を自認する私は少数派=マイノリティで、kavcaapを通じて出会う様々な人たちとの対話を通して、自分が何かを「普通」だと規定することが、何かを「普通じゃない」ことにするという当たり前の仕組みに気が付きました。たとえば“男性”に「彼女はいるの?」と質問をするとき、男性を恋人にすることや男性も女性も恋愛対象であるという可能性を予めなかったことにしています。また、見た目等から”男性”であると判断しているけれど、その人の性自認は異なるかもしれない。同じように、アートで何かを表現することによって、“表現される側”の人たちの何かを、なかったことや見えないものにすることに加担してしまうかもしれない。どうやって気をつけたらいい?ちゃんとアートが届く先の人たちのことをどれだけ私は想像できている?”表現される側”の人たちが「そうではないんですよ」と言える余地をつくれている?——そんなふうに、自分の想像力の壁を感じたり、多様性は大事だよねとか言いながら矛盾している自分のふるまいに気づかせてくれるのがkavcaapでした。自分が当たり前に思っていた価値観を批判されるのはもちろん辛いけれど、それでも「ここに私の知りたいことがある」という確信があって、その活動に3年間参加しました。

同時にkavcaapでは、私が当たり前だと思っていた性やセクシュアリティに対する価値観や社会規範というのは普遍でも不変でもなく、検討してよりよく変えていくためのものだということを学びました。そして、アートというのは、社会の価値観や規範を思考するのに素晴らしく適したメディアであり、アートによって“表現される側”であった人たちをエンパワーする可能性すらあることに、気づいたのでした。

その後、kavcaapでの経験から、自分の属性——それまで何となく感じていた、見られる性としての女性であること——の居心地の悪さや、アートの現場に携わるなかで感じた性差について、「ジェンダー」という考え方を少しずつ学びながら考えていくことになりました。(※1)

※1|kavcaapでの経験についてはこちらにも寄稿しています。『Please… Use Other Door: Another Look At Exhibition Making/別の入口から――展覧会づくり再考』(Load na Dito、2021年)

張由紀夫+松原新《MY FIRST SAFER SEX》(「kavcaap2003」、2003年)

「ジェンダー」のこと
現代では「ジェンダー」という言葉を聞くと、敬遠したい気持ちになる人もいるかもしれません。ここで、社会学者で京都精華大学教授の山田創平さんのテキストを引用します。

「ジェンダー」はしばしば「社会的な性別」とか「社会・文化的な性別のありかた」などと説明される。その説明は間違いではないものの、しかし十分とは言えない。なぜかというと、この言い方では、「社会」や「文化」がまずあって、ジェンダーはそのような「社会・文化」という広大な現象の「一部分」というように見えるからである。しかしながら、現在のジェンダー論では、ジェンダーをそのようにはとらえない。ジェンダーは社会や文化の一部分ではなく、社会・文化そのものであり、私たちが「社会・文化」と言うときのその構造は、つまるところ「ジェンダー構造」のことであるととらえる。

 端的に言えば、「社会や文化がジェンダーをつくり出す」のではなく、「ジェンダーが社会や文化を組み立てる」と考えるということだ。その意味で社会や文化を知ろう・学ぼうとするとき、ジェンダーに対する理解は欠かせない。もう少しはっきり言うと、ジェンダーに対する理解がなければ、社会や文化についてほとんど何も知ることはできないと言ったほうがいい。それは美術の文脈においてももちろんそうで、ジェンダーに対する基本的な理解がなければ、美術史も、批評も、現代美術も、地域型アートプロジェクトも何も理解できないのではないだろうか。少なくとも私はそう考えている。(※2)

ジェンダーは自分の外部にあって距離を置けるものではなく、すでに私たちの内面にあって、社会生活のなかでその人の振る舞いに自ずと表れてくるものだと私は考えます。CHISOUでも受講者がプロジェクトチームを結成して活動していきますが、人と人が関わり合う場には小さな「社会」が生まれますので、油断をしているとジェンダーをはじめとした「大きな社会」の構造や価値観を無意識になぞってしまうことがあります。でも、アートというのは、当たり前だと思っていた社会の価値観を拡張したり、想像を超えていくことが最大の魅力だったはずです。そのアートを支えるアートマネジメントの現場が古い価値観の社会をなぞっているとしたら……それは残念なことだと思いませんか?

アートの現場に参加する「いろんな人たち」を想像できるか?
kavcaapの後、いくつかの現場を経て、私は“地域”というのは、上述したようなアートの実践に適した現場だと思うようになりました。多様な属性の人たちの参加を前提とする“地域”でのアートマネジメントには、創意工夫の余地があると考えたからです。

アートプロジェクトの現場にはアーティスト、企画者、スタッフ以外に、市民の参加者、協力者、ボランティアスタッフなどが関わります。その人たちの属性は、見た目でわからなかったり、時間と共に変化したり、関わる相手や環境によって別の属性が前景化してくるものです。だから、地域アートプロジェクト等で広く市民に参加を呼び掛けるような場合は、「いろんな人たち」(※3)の参加を前提とするしかありません。

※3|「いろんな人たち」という言葉は時に個の存在を見失わせますが、ここではあらゆる属性の人たちの存在をできる限り想像するという意思表明のために使います。

「水平」のためのアイデア
私の経験から言うと、アートプロジェクトの現場に関わる人たちの関係をなるべく水平に保つことができると、アートプロジェクトの質も高まります。そして、そのような関係性は、アートマネジメントによってある程度つくることができると私は考えています。明確な規則やメソッドがあるわけではありませんが、CHISOUで実践できると思うアイデアをいくつか書いてみます。

例えば、身体への負担が過ぎるときは男性でも女性でも誰でも「重いものを運ぶのは得意じゃない」と主張してよいとする。重すぎる荷物は、誰かと一緒に運べばよい。ここで大事なのは、性別や見た目で役割を決めないということです。

また、「これは得意じゃないから自分じゃない人がやった方がいい」は合理的に聞こえますが、場合によっては注意が必要です。努力して成し遂げようとする仕事と、そうしない仕事の違いは何でしょうか?アートプロジェクトの現場の、企画力や発想力や発信力が試される仕事、掃除や倉庫の整理といったケアする仕事、議事録の作成やDMの封入といった事務仕事、それらはすべて「誰かがやらなければならない必要不可欠な仕事」です。得意でなくても、お手本を見て注意深く取り組めばできるかもしれません。もしそうすることに関心がないなら、自分が仕事内容を勝手に査定していないかチェックすることです。自分や誰かがやらない仕事の価値を低めないためです。

他には、会議中に「モヤモヤ」している顔をしている人がいたら質問することです(質問はその人が語りだすきっかけを作ることを助けます)。そして、その人の立場になってみて納得できるかどうかを考えてみます。もちろん質問されたくない人もいるかもしれませんので、その場合は別の工夫が必要です。説得や解決や合意することではなく、まずは“誰でも異なる意見を話して良い状態をつくること”を目標にするのはどうでしょうか。

そうは言っても……
さて、そうは言ってもアートマネジメントはタスクやスケジュールや予算があります。目の前に締め切りが迫っているときは、得意な人にやってもらう方が効率的な場面は必ずあります。そんなとき私たちはどうやって皆で納得して進めていくのがよいでしょうか。その方法を受講者の皆さんとその都度発明していけるなら、私にとってはとてもエキサイティングです。皆さんはどう思いますか?

  • Update: 2021.08.29 Sun.
  • Editor: 内山幸子(プログラムコーディネーター[プログラム2「生態」])
  • Photographer: kavcaap実行委員会

REFERENCES

地域アート

美術手帖
https://bijutsutecho.com/artwiki/18

アートプロジェクト

美術館・アート情報 artscape
https://artscape.jp/artword/index.php/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88

アートNPO

阪神・淡路大震災でのボランティア活動の広がりを契機に、非営利団体の活動を支援する特定非営利活動促進法(通称NPO法)が1998年に制定された。内閣府によると2016年1月末時点で福祉や環境など20の分野で全国で50,497のNPO法人が存在する。2012年にはNPO法人への寄付を促す税制上の優遇措置などに関する認定制度が強化され、2015年10月末現在902団体が認定された。このうちアートNPOとは芸術文化を主たる活動内容とするNPO をいう。NPO法人アートNPOリンクの調査によると全国のアートNPO法人数は2003年の535団体から2013年には4867団体に増加している。アートNPOにはアーティストだけでなくマネージャーやコーディネーターがかかわり、その専門スキルは行政や企業、教育機関などとの協働事業で活かされており、その実績はアートNPOが芸術文化の領域で「新たな公共」や「市民社会」
を実現する道筋を示している。

吉澤弥生・中川 真・西尾咲子・他『『地域に根ざしたアートと文化~大阪市:地域等における芸術活動促進事業』(2015年度)調査報告書』発行:共同事業体(NPO法人こえとことばとこころの部屋、應典院寺町倶楽部、NPO法人アートNPOリンク)、2016年
http://arts-npo.org/artnpodatabank.html

芸術祭

ウィキペディア(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B8%E8%A1%93%E7%A5%AD

ジェンダー

「社会的・文化的に形成された性別」のこと。人間には生まれついての生物学的性別(セックス/sex)がある。一方、社会通念や慣習の中には、社会によって作り上げられた「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー/gender)という。「社会的・文化的に形成された性別」は、それ自体に良い、悪いの価値を含むものではなく、国際的にも使われている。

内閣府 男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画 用語解説」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/pdf/yougo.pdf