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ダイアログ #1 「共有のためには“メディア”が必要」

受講者によるダイアログの第一回。今回はキュレーターで多摩美術大学非常勤講師の高橋裕行さんのレクチャー「共有のためには“メディア”が必要」を受講後の、山下千馨さん(実践編A)、堀本宗徳さん(実践編B)、野村隆文さん(実践編C)に参加していただきました。

写真左から、山下さん、堀本さん、野村さん

山下
私は主婦の傍ら、製本の講座を開いたり、小学校での読み聞かせや図書館での本を修理する活動などをしています。半世紀生きてきて「学ぶ」ことのおもしろさに気づき、いまだからこそ経験できること、感じられることがあるのではないかと思い、CHISOUに参加しました。

堀本
北海道の札幌市出身で、いまは奈良教育大学で仏教美術について研究しています。芸術が社会教育の中にどのように広がっていくのかを学びたいと考え、昨年度からCHISOUに参加しています。

野村
2021年、東京から奈良に引っ越してきました。いまは奈良の企業でコピーライターとして働いています。昨年度もCHISOUに参加していましたが、今年度は自分でも表現活動をしてみたいと思い再び受講することにしました。

ー高橋さんのレクチャーはいかがでしたか?

堀本
「メディアアート」という言葉は、目的が明確である「メディア」と自由な解釈を許される「アート」という相反する言葉が一つになっていて、それ自体矛盾を孕んでいるということが興味深かったです。

野村
「メディアアート」って、テクノロジーを使って華やかなビジュアルを生み出すものという認識くらいしかありませんでしたが、もっと根っこの部分で、既存の枠組みにとらわれずメディアの概念を揺らしていくアートなのかもしれないと思いました。

ー技術の進歩や変化が「真·善·美」に揺らぎを与えるというお話もありました。

堀本
メディアは目的に応じて形成されていくものでありながら、それ自体が違う受け取られ方をしたときに揺らぎが生じ、創造性が生まれるという考え方がおもしろいと感じました。

山下
私は本や地図など、今では当たり前になっているメディアについて考えるときに、その起源や歴史を辿っていく姿勢は誠実だなあと思いました。

野村
本の起源ということで言えば、15世紀のヨーロッパを舞台にした『チ。-地球の運動について-』という漫画を思い出しました。当時禁じられていた地動説の研究についての本を、命懸けで出版しようとする人たちの姿が描かれていて。地図もそうですが、人間は昔からすごく「伝えたがり」なんだなあと。その想いは時代の流れと共にどんどん加速している感じがします。

ー「現代はスマホの中には全てのメディアが詰まっている」とおっしゃっていましたね。

山下
そう、その一つひとつがあたりまえの存在になっているいまだからこそ、それらがどのように形成されてきたのかを知ろうとするのは重要な視点ですね。

堀本
あらゆるメディアがスマホに集約されてすぐにアクセスできるようになったけれど、一方でそれを活かすためには使い方を学ばなければいけないと感じました。

山下
自由だからこそ試されますよね、情報をどこに取りにいくのか。

堀本
でもまだまだ、スマホよりも実際に現場に行ったほうがたくさんの情報を得られるというのが実感としてあります。

山下
技術の進歩で、離れた場所からでも嗅覚や味覚を感じることができるようになるというのはいいなと思う一方で、リアルに体験することの価値がより上がるのかなとも思いました。アンパンマンの原作者·やなせたかしさんが「ひもじい思いをしている人にパンを差し出す行為こそ正義」というようなことをおっしゃっていましたが、だからこそアンパンマンはいつの時代も愛されるヒーローなんだと。

ーでも、食べていないのに満腹感を感じられるような技術が生まれたら、まさに「正義」の意味が揺らぎますね。

山下
たしかに!(笑)

ーいよいよこれから実践編が本格的に始まりますが、今回のレクチャーからそこに繋がりそうな手応えはありましたか?

堀本
実践編Bのアーティスト·西尾美也さんは、服はその人の情報を表現するものである一方、ある意味閉じたメディアであると考え、他人と服を交換することでコミニケーションを生み出すアートプロジェクトに取り組まれています。それはつまり、今回のレクチャーで言う「揺らぎ」を発生させていくということだと思うのですが、服を交換するというすぐにできることでそれを生み出せる発想ってすごいなと、改めて感じました。

野村
僕は実践編Cで「良い風化とは何か?」を自分のテーマにしようと考えていて、せっかく 奈良に住んでいるので、文化財の修理·修復に関わっている方にインタビューすることから始めようと考えていました。そして最終的には、それを編集して文章で表現することになるのかなと。でも今日のお話を伺って、全然違うアウトプットにしてもいいのではと思いました。例えば「地図」で表現してみるとか。一度計画をフラットにして、考え直してみようと思います。

山下
本の修復で、虫に食われた穴に紙を漉く前のドロドロした原料を流し込んで補修する「漉き填め(すきばめ)」という技術があるのですが、最近は穴の形をスキャンしてそこにぴったりのパーツを3Dプリンターでつくってはめ込むという新しい技術も生まれています。これまで製本は、洋の東西を問わず「巻く」「折る」「綴じる」という段階を踏んで、技術と共に進化してきました。実践編Aのアーティスト·長坂有希さんは図鑑の制作を予定されているのですが、それがどんな技術によってどんな形になるのかも私としては楽しみです。

(2022年8月6日/CHISOU lab.)

  • Update: 2022.08.29 Mon.

REFERENCES