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アーティストではないあなたは何者なの?
──アートマネージャーへの道のり
Editor: 野田智子(プログラムコーディネーター[2020年度])
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──アートマネージャーへの道のり
Editor: 野田智子(プログラムコーディネーター[2020年度])
アートに携わる仕事を始めてから、自分のことを「アートマネージャー」と名乗れるようになるまで、かなりの年月がかかりました。その間、ずっとこの問いが頭を巡っていました。
アートマネージャーとは、アートと社会のつなぎ手と説明されることが多いですが、その仕事内容や具体的な専門性、スタンスは実に幅広いというのが実際のところ(※1)。各地でアートプロジェクトが展開される今日においては耳慣れた言葉になりつつありますが、私が初めてアートマネジメントという言葉を知ったのは2005年ごろ。関西の美術大学で写真を学び作品制作をする中で、大学卒業後にアーティストとして生きていくことにリアリティを感じることができず、そもそもアーティストの社会的な立場ってあるの?どうやってお金を稼ぐの?アーティストとして生きるとは?という漠然とした疑問から、アーティストの制作、生活環境について興味を持ち「アートマネジメント」を学ぶことのできる大学院へと進みました。大学院では日本の文化制度や文化政策には触れられたものの、アーティストがどのような環境で作品を制作し、その環境はどのように誰がつくっているのか、そしてどうやって生業を得て行くのかについては分かりませんでした。
※1|本講座のディレクター西尾美也氏のメッセージにある「アートマネジメントの最終目標は、すべての人が創造的である状態に向けて働きかけること」には、心底共感をする。アートマネージャーは、アーティストや作品だけでなく、それらを受け取る“鑑賞者”の存在も忘れてはならないと思っています。
そこで「自分事」として考える場を持ちたいと思うようになり2006年に2名のアーティスト、中崎透と山城大督とともに「Nadegata Instant Party」(以下、ナデガタ)を結成しました。作品のためのリサーチ、対話、制作、発表、資金運用、収蔵、その全てをともにするまさしく実践の場です。これまでに国内外津々浦々30プロジェクトに及ぶ作品を発表してきました。
ナデガタを始めた頃は、アーティストではない自分の仕事を説明することを、とてももどかしく感じていました。今でこそアートコレクティヴという言葉でもって様々な職能との協働が謳われていますが、当時はアーティストのそばにいる、アーティストではないあなたは、何者なの?──常にそう投げかけられているかのような、後ろめたさにも似たようなものがつきまとっていました。
そんな中、ナデガタの活動と並行して、美術作品の販売や作家のマネジメントをメインとしたギャラリーで働いたり、パブリックアートや国際展の広報を請け負う美術専門の会社に在籍したりするなどの経験を積みました。また、ナデガタの活動を通して経済的、行政的な観点を持って現場に接することができ、ようやく「アートマネージャー」と名乗れるようになったのは2013年あたりのことです。(※2)
※2|アートマネジメントとどのように向き合ってきたか、2016年に執筆した記事はこちらから「生きた生活から表現は生まれる─アートマネジメントと向き合うポリシー」
アーティストとの仕事や対話はいつもほどよい緊張感を伴います。社会に向けられた彼らのリアリティある鋭い視点は、見えないものを可視化し、自分と異なる他者とを結びつける力をもっています。私はアートによって社会は変えられるとは思っていないけれど、彼らが持つ視点にはこの社会を生き抜くヒントがあると信じています。
「アートコレクティヴ」や「コレクティヴ」とも同義的に使われる。