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「Ethno-Remedies: Sri Lanka」
ラナシンハ・ニルマラ

2021年9月23日(木)

Editor: 西尾咲子(プログラムマネージャー)

「Ethno-Remedies: Sri Lanka」<br>ラナシンハ・ニルマラ

スリランカ出身で観光社会学が専門のラナシンハ・ニルマラさんをお招きし、スリランカの伝統料理ロティとキリバットを一緒につくるワークショップを行いました。吉岡養蜂園の蜂蜜もかけて味わいながら、スリランカの植物や果物を活かした料理や飲み物についての話を伺いました。食に詳しい受講者が、熊野古道釜炒り茶と冷抹茶を振るまい、その由来と効能についても発表。スリランカと日本それぞれの風土に根ざした食が持つ薬効の奥深さを体験する時間となりました。

観光の持続可能性と食

今日は茶話会のようなカジュアルな時間にしたいと思っていますので、ゆっくりと食べながら私の話を聞いてくださいね。私の研究テーマの一つに「観光の持続可能性」があります。観光客がたくさん訪れることを目的とした観光ではなく、地域の持続可能性や住民の幸福のために観光をどのように活用できるのかについて探求しています。どの地域においても、食べることは最も大事なことですが、観光の持続可能性にとっても、特にポストコロナにおいては、農業や健康的な食事がさらに重要になっていくと考えています。

今日はスリランカの様々な事例を取り上げながら、スリランカではどのような健康的な食事が実践されており、人々はそれをどのように捉えているのかについて、日本のことにも触れながら、一緒に考えてみたいと思います。色々なハーブの名前が話題に出てきますが、その科学的な効能や具体的な薬効に関しては、皆さんご自身で後から調べてみてください。インターネットで検索すると、特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会などのウェブサイトで、色々な種類のハーブについて詳しく説明されていますので、日本語でも英語でもたくさんの情報を得ることができます。私の話では、どのようにスリランカの日常生活でそれらが用いられているのかについてだけ、簡単に紹介したいと思います。

スリランカでは紅茶・コーヒーは
どのように飲まれているか

まず、スリランカでは日常的にどのように紅茶が飲まれているかについてお話しします。セイロンティーという言葉を聞いたことはありますか。1970年代初め頃までスリランカはセイロンと呼ばれていましたが、国名が変わった現在でも紅茶のブランド名として使われています。キャンディやヌワラエリア、ウバ、ディンブラなど、産地によって紅茶の味は異なりますが、スリランカ産の紅茶が好きな人でしたら、どの産地の紅茶なのかが味でわかると思います。

スリランカでは砂糖とミルクを入れて飲まれていて、さっぱりとした紅茶の味そのものを味わうことはありません。今日のワークショップではストレートのサラシア紅茶を飲んでみましたが、日常的には飲まれません。ミルクを入れない場合でも、ジンジャーを入れて飲む場合でも、砂糖は必ず入れます。

スリランカではコーヒーは一般的な飲み物ではなく、エリートの特別な飲み物のような感じで捉えられています。最近では若い人の間で「コーヒーを飲みに行きましょう」といった風潮もありますが、一般的にはコーヒーは薬だと考えられていて、お腹を壊した時に飲むものとされています。私も日本に来るまでは、そのような感じでコーヒーを飲んでいました。例えば、先ほど皆さんと一緒につくったキリバットを食べる時にも、コーヒーを飲みます。キリバットはココナッツミルクをいっぱい入れてつくるので、お腹を壊さないためにコーヒーが一緒に飲まれるのです。お腹をすごく壊した時は、コーヒーにライムやジンジャーを少し入れて飲むこともあります。

薬はひどくお腹を壊した時に使うくらいでして、少しだけ痛い場合はコーヒーを飲むだけ。私も小さい頃からお腹が痛い時はコーヒーを飲んで、薬は摂らないで治すことが多かったです。今も医者には行かず、ハーブを飲んで治すのが常ですが、一昨年に日本でお腹を壊した時には、友人からライム入り紅茶を勧められて、ブラックティーにライムを入れて初めて飲んでみたら治りました。そんなふうに紅茶やコーヒーは日常的に色々と飲まれています。

スリランカの伝統的な
ハーバルドリンク

スリランカで紅茶が栽培されるようになったのは、400年にわたる植民地の歴史があったことと関係しています。まず最初にポルトガル、その次にオランダ、その後にイギリスの植民地になりましたが、イギリスの植民地が一番長く続きました。イギリス人がスリランカの土地にやってきて、まずコーヒーに適した場所を見つけて、コーヒーを栽培するようになりました。その後で紅茶を栽培するようになって、スリランカの人々も少しずつ紅茶を飲むようになりました。

それ以前の時代には、スリランカではベリマル(Beli mal)のようなハーブが日常的に飲まれていました。ベリは背の高い木に実る黄緑色のフルーツですが、そのままジュースとして飲んだり、蜂蜜や砂糖を加えてペーストにして食べたりします。味が濃くて強いので、私はあまり食べないのですが、ジュースにするとすごく美味しいです。私の実家にもこの木が生えていて、ジュースにして飲んでいます。この木に咲く花をベリマルと呼んでいますが、地面に落ちた花を拾って乾かした後、水で煮てから飲むと、すごく美味しい。また、実の外側にある皮を切り取って、花びらのお茶に入れて飲むこともあります。ベリマルのお茶はコレステロールや便秘に効くなど、色々な効能があると言われており、健康に良いハーブであると認識されています。シンハラ語でポルパラ(Pol pala)やラナワラ(Ranawara)、イラムス(Iramusu)と呼ばれる植物も、そのまま乾かして水で煮てから飲むハーバルドリンクとして親しまれています。

ゴツコラ(Gotu Kola)と呼ばれる植物の葉は、サラダとして食べたり、ハーバルドリンクとして飲んだりしますが、コラケンダ(Kola Kenda)をつくる時にも用いられます。コラはハーブを意味し、ケンダは色々なハーブでつくるお粥のようなものです。私の実家でも、椰子やココナッツ、健康的な豆類、伝統的な米などを加えて、ゴツコラでコラケンダをつくって飲んでいます。

見直されつつある
ハーバルドリンクの価値

現代のスリランカでは、先ほどお話ししたようにミルクティーを飲むのが一般的になり、伝統的なハーバルドリンクはほとんど飲まれなくなりました。スリランカでは粉ミルクを使ってミルクティーをつくるのですが、5年ほど前から医者の間で「粉ミルクは健康に良くない」と言われるようになり、国際的な問題になっています。粉ミルクをたくさん輸入している国は、中国の次にスリランカなのです。中国とスリランカの人口を比べると、どれほどスリランカで粉ミルクが飲まれているのかがわかるでしょう。ニュージーランドに大規模なナショナルカンパニーがあって、貿易の観点から国としてはダメと言えない関係にあります。そのため政府は何もできないのに、医者は「良くない」と言って、大きな社会問題になっているのです。

私の実家でも以前はミルクティーをたくさん飲んでいましたが、今では両親はほとんど飲まなくなりました。その代わり、コラケンダを毎朝つくって飲むようにしています。各家庭によって少しずつ習慣が変わってきているところです。私もミルクティーが好きだったので、日本にいても朝も夜も飲んでいたのですが、今では豆乳を飲むようになりました。

身近な場所で買える
ハーバルドリンク

皆さんが先ほど飲んだサラシア茶は、スリランカに自生しているコタラヒムブツ(Kothala Hmbutu)という植物の幹を粉にしてつくっています。コタラヒムブツは基本的には輸出が禁じられており、許可を得たところだけが輸出できます。スリランカではサラシアは紅茶として飲まれることはありませんが、薬として用いられています。伝統医療のアーユルヴェーダでは、様々なハーブと一緒に混ぜて飲んだり、体に塗布したりしてきました。最近、スリランカでも糖尿病が流行るようになり、サラシアは糖尿病に効くとされるので、その薬効を認識して飲まれるようになっています。モリンガのように、原産国であるスリランカやインド、東南アジアよりも、スーパーフードやヘルシーフードとしてグローバルで認識されたことが大きいと思います。

サラシアやポルパラ、ラナワラ、イラムスは、以前はスーパーマーケットでは販売されていませんでしたが、最近は販売されるようになって、紅茶として飲まれています。スーパーマーケットなら一般のスリランカの人々だけでなく、観光客も買いやすいですね。アーユルヴェーダの薬を専門的に扱う小さな商店でも売られています。そのようなお店だとそれほど高い値段ではなく買えます。コタラヒムブツやポルパラ、ラナワラ、イラムス、ベリなど色々なハーブが混ざった粉末状のティーバッグも売られていて、紅茶のようにお湯を入れるだけで飲むことができます。まだまだ流行っているとまでは言えませんが、飲む人は飲んでいるという感じです。

食は薬である

伝統的で健康的な食事を摂ることができる店も、少しずつスリランカで増えてきています。その一つにヘラボジュン(Hela Bojun)と呼ばれる場所があります。ヘラは「伝統的なスリランカ独特の」という意味で、ボジュンは「料理」のこと。ヘラボジュンは、スリランカの農業省が開設したレストランのようなところでして、最近はどの地域に行っても見かけます。その土地の農作物や料理を味わえるのですが、小麦粉の代わりに米や豆からつくった粉を用いてクリエイティブで健康的な料理をつくっていたり、ベリなどのフルーツやハーブを売っていたりします。

2020年に奈良県立大学の学生を連れてスリランカへフィールドワークに行ったことがあるのですが、その時にヘラボジュンに寄りました。値段がとても安くて、ベリのジュースは25スリランカルピーくらいでしたので、10円以下で買うことができました。しかもすごく美味しかったです。安くて健康的なものをたくさん食べることができますので、フィールドワークの最後には学生が健康的に太っていましたね。

以前だと、健康的な食事を食べられる店はスリランカには本当にありませんでした。ヘラボジュンが開設されてからは、どの地域でも必ず一つは店を見つけることができ、たくさんの客で賑わっています。ちゃんと政府のマークを掲げている店の方が良いのですが、同じ名前がついた民間のレストランもあって、美味しくて健康的な料理を食べることができる場合もあります。

サワーソップやジャックフルーツなど色々な果物からつくられたフルーツジュースを飲めるジュースバーと呼ばれる店も、各地にあります。スリランカではソフトドリンクの代わりにフルーツジュースが飲まれる傾向にありまして、ジュースバーでは50円くらいの手頃な値段で、美味しくて健康的なフルーツジュースを飲むことができます。

学生と一緒に訪れたビーチリゾートのジュースバーでは、パパイアやグアバなど、それぞれの果物の薬効や健康上の利点などについても丁寧に書かれていました。きちんと科学的に調べて書いているのかどうかはわかりませんが。観光地でしたので数倍の値段がしましたが、それでも200円くらいで買えました。サワーソップは味が強くて、私は食べるのがあまり好きではありませんでしたが、初めてジュースにして飲んでみると、すごく美味しくて驚きました。

ジャックフルーツは「神様の木」のように言われており、フルーツとして食べることもできますし、カレーにしたり、種を食べたりもできるのですが、ジュースバーではそのままジュースにして飲むことができます。そんなふうにスリランカでは外出した時に、コーラなどのソフトドリンクの代わりに、「喉が渇いたのでフルーツジュースを飲みましょう」というような感じで気軽に飲むことができますので、フルーツジュースはハーバルドリンクよりも流行っています。

コロナ禍と共に、
伝統的な薬が日常生活へ

日本ではパクチーやコリアンダーと呼ばれていますが、スリランカではコッタマリ(Kottamalli)という名前のハーブでして、種子を潰して粉にしてから飲み物として摂取します。スパイスとしてカレーに入れたりもしますが、葉をサラダのように食べることはあまりありません。コッタマリの種子はすごく健康的だと考えられており、例えば風邪をひいたり熱が出たりした時に、どの家でもよく飲まれています。特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降は、免疫力を高めるということで、すごく流行るようになり、売り切れることもあります。私の実家でも紅茶の代わりにコッタマリを飲んでいます。

コッタマリの他にも、色々な伝統的な食べ物が、免疫力を高めるという理由で、コロナ以降は注目を集めるようになっています。先ほどお話ししたベリのような果物やジンジャー、ガーリック、コッタマリなどの様々なハーブを入れてつくったドリンクが、多くの家庭で紅茶の代わりに飲まれています。今ではほとんど紅茶を飲まないという家庭もあるくらいです。西洋医学が専門の医者でさえ、「私たちも飲んでいるので大丈夫ですよ」とハーブの安全性について言及することがあります。

蜂蜜もその一つでして、伝統的な薬をつくる時にはいつも使われているのですが、最近はコロナ患者のためのスープのような食べ物に入れられたり、免疫力を高めるために小さじ2杯の蜂蜜を毎日食べてくださいと言われるようになったりしています。とりわけコロナ以降においては、伝統的な薬を扱う医者や、アーユルヴェーダの専門医がハーブやスパイスからつくる様々な商品が販売されて流行るようになってきていて、スリランカの一般家庭でも日常生活に取り入れられるようになる風潮があります。

  • Update: 2022.03.15 Tue.
  • Editor: 西尾咲子(プログラムマネージャー)

REFERENCES

講座について

LECTURE OUTLINE

ラナシンハ・ニルマラ

レクチャー&ワークショップ「Ethno-Remedies: Sri Lanka」

2021年9月23日(木) 13:00–17:00

柴田ビル3階

観光社会学が専門のラナシンハ・ニルマラさんを招き、スリランカの伝統料理ロティとキリバットを調理した後、吉岡養蜂園の蜂蜜も味わいながら、スリランカの薬草や植物を活かした料理と飲み物について話を伺いました。受講者が熊野古道釜炒り茶と冷抹茶を振るまい、由来や効能を発表。スリランカと日本それぞれの風土に根づいた食の薬効の奥深さを体験しました。

ラナシンハ・ニルマラ
観光社会学/奈良県立大学准教授

1983年スリランカ生まれ、奈良県在住。観光社会学、南アジア地域研究を専門とし、主に地域社会の独自性と主体性を重要視しながら、観光を活かした地域活性化や持続可能な開発を研究している。JICA奈良デスクと協力して、SDGsへの認識を高めるための活動も行う。